2006年09月12日

新たに大規模油田が発見されると…

 ニューオーリンズ沖の深海油田の発見についての評価は時期尚早なのでしょうが、今言えることをまとめてみましょう。

 末尾の英文ニュースで報道されているように、今回の発見場所の近傍でたくさん採掘が行われたとして、米国の残余埋蔵量が5割増しになるということの意味を、Rao-D Cityworksの作成した生産量実績と予測のグラフに書き加えてみました。
Lower48というのが米国本土の油田の生産量で、AKとあるアラスカの北極湾岸の油田(プルードー油田が最大でしょうか)の生産量とDWとある深海油田のこれからの寄与とを分けて書いてあります。
ハバートの釣鐘曲線からのずれは大きくなりますが、2005年の時点では米国の原油輸入量は国内生産量の倍にもなっていることからすると、今回の発見だけではトレンドを逆転させるとは言いがたいものでしょう。
 残存埋蔵量を五割増し、といっても、残存埋蔵量がもう枯渇に近い状態であることと、すでにピークを過ぎてから年数が経ち、外国原油に過半を依存するように切り替わっているというトレンドがこのグラフを見るとはっきりします。


 さて、9月12日現在、ひところの最高値と比べてバーレル当たり10ドルほどもニューヨークの原油価格は下がっています。この発見によっては現物の原油が市場に出てくることはありえません(実際には産出を始めるまで4〜8年程度のリードタイムが必要なようです)から、原油先物市場を左右する思惑の影響が10ドルくらいの大きさであるという評価になっているのと合っていると言ってよいでしょう。

 daiさんはブログの中で、「マネー」を年金基金などの長期投資を行うグループとヘッジファンドなど短期的な投機グループの2種類に分けて分析をしていました。

 短期的な投機マネーはそもそも値上がり時も値下がり時も共に儲けることが可能ですから、ここ1年ほどの原油価格の平均値を押し上げ続ける働きをしたとは考えにくいです。
が、今回のような売り材料が発表されてから価格低下がある際には、この下げ幅を大きくするという関与が考えられ、この投機グループの行動が効いていると考えられます。

 一方、長期投資を行うグループの寄与として重要そうなのは、石油先物市場に参入する母集団が増え続けていることで、一過的に買い手が増えることから相場を上げる、いわば昔の日本の都市部への人口流入による地価の上昇と似た要因があるのでしょう。(毎日エコミノスト誌9/5号の記事「商品投資が原油を100ドルに押し上げる」より)
 長期投資グループの寄与は、今回のような変動時にも、より安定的な買い手として行動し、どちらかといえば価格低下を抑えていると想定されます。
 多くの欧米の長期投資グループが早期ピークのシナリオを可能性の高いシナリオとして頭の中に入れて行動しているのだとすれば、短期的な安値が出てきた今だからこそ買いだ、として買い支えていることもありえます。

 ここ1年半ほどの上昇傾向を押し上げていた要因、つまり、これらの長期投資グループの戦略である、「ロング」の持ちっぱなしというやり方が今後変化するかどうかは、情報の二の矢、三の矢が出てくるかどうかによるでしょう。

ですから、中間選挙を前にしたブッシュ政権としては、なんとかしてDeep Ocean Energy Resources (DOER) actを上院でも通過させて、長期の先物価格の想定値を下げさせることに全力を尽くすのではないでしょうか。この政治的な動向が原油価格の更なる下げ要因になることはありえます。

 The Oil Drumでの深海原油記事はこの法律案について取り扱ったものです。
http://www.theoildrum.com/story/2006/7/12/101236/478
 法律の前提となっている予測が大甘で、メキシコの深海底でやったような試掘の大外れがあってもおかしくない、という批判をしています。

この項、ひとまず終わります。 以下、以前ニュース短信に書いたものを独立させてここにおいておきましょう。


●シェブロン・大油田を掘り当てる (初出は9/8頃です)
 ピークオイルが到来することにより抜本的な温暖化対策が進むことを望む立場からすると悪いニュースです。

 アメリカのシェブロン社他3社は、ニューオーリンズ沖合いの深海で大規模な新油田を発見しました。アラスカ北極岸の原油発見以来のもののようで、米国の確認埋蔵量は50%増加するのかもしれません。

Biggest US oil find in years sparks hope for energy security
http://www.euractiv.com/en/energy/biggest-us-oil-find-years-sparks-hope-energy-security/article-157524

 新聞各紙の第一報が流れています。

BBC News: 'Huge oil find' in Gulf of Mexico
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/5318776.stm
New York Times: Big Oil Find Is Reported Deep in Gulf
http://www.nytimes.com/2006/09/06/business/worldbusiness/06oil.html?_r=1&oref=slogin
Telegraph: Chevron strikes oil in 'biggest US find'
http://www.telegraph.co.uk/money/main.jhtml?xml=/money/2006/09/06/cnchev06.xml
International Herald Tribune: Oil pool tapped in Gulf of Mexico could boost U.S. reserves by 50 percent
http://www.iht.com/articles/ap/2006/09/06/business/NA_FIN_US_Major_Oil_Discovery.php

Spiegel: Chevron meldet Fund von gewaltigen O"lvorkommen
Neue Zu"rcher Zeitung: Riesige O"lreserven im Golf von Mexiko entdeckt

Oil find unlikely to bring back cheap gasoline
http://www.chron.com/disp/story.mpl/business/4174406.html


 近年新規原油発見量が大幅に減少傾向にあったことから石油業界にとってはタイムリーな反論のネタとして使われることになるでしょう。
とはいえ、たまたまの内野安打が一本出た、という程度のものかもしれませんから、これで大喜びしているようなら、石油業界自身がいかに真剣にピークオイルを懸念しているのかがわかるのかも。


『南十字星通信』ではritaさんが、
ジャックが救世主?/Jack the Saviour?
http://www.the-commons.jp/commons/main/rick/2006/09/jack_the_saviour.html
の中で紹介しています。

追記:
 疑問点をいくつも指摘しているエネルギー・バレティンの記事
http://www.energybulletin.net/20140.html
によると

"6.米国の上院では米国の大半の沿岸部での採掘を25年間禁止している法律を廃止する法案が上程されており、あと数週間で採決となる。下院では通過したが上院では反対が多いだろう。石油産業はもしフロリダ沖や東海岸の採掘が可能となれば莫大な利益が転がり込む。新たな大原油発見の可能性があるという知らせは、法案通過を後押しするだろう。"

としています。このあたりや、政治的にはあと2ヶ月後に米中間選挙が控えておりガソリン価格が安くなければ経済失政を問われることも実際の動機となっているかもしれませんね。

発表を受けてか、原油価格も少し下がり始めているようですから。

以下、頂いたコメントを転載しておきます。

●Posted by mattmicky at 2006-09-07 01:08:57
どの報道にも「6000メートル以上もの深さの海底まで探さなければならないこと、ChevronTexacoがそこまでしても採算が採れると判断していること」が何を意味しているかについては全く書いていないので、ま、「単純な量の問題」って意識は、そうとう先まで抜けないでしょう。
個人的には、
・水深何メートルの海底からさらに地殻の中へ何メートル掘り進んだか
・掘削および採掘にどれくらいどういう燃料を投入しなければならないのか
について、正確な数値を知りたいところです。


●Posted by rita at 2006-09-07 03:57:12
tod記事の紹介はおまかせします。
うちでは「超深海(2マイル?)」ということ、「量的にもそう多くない」、しかも「ハリケーン銀座での操業」などから、たいしたものじゃないだろうと見ています。内野安打、くらいですね。

●コメントby rita 2006-09-12 17:58:54
日が経つにつれて,これ,どんどんうさんくささをましていますね。謀略的な臭いがどんどんします。「思惑」操作、中間選挙をにらんだ政治的価値以外に,長期的に「ピーク否定」の狙いもあるような。試堀成功で鬼の首でもとったかのようなマスコミの「ピーク攻撃」のひどさを見ているとそんな気になります。超深度、しかもかなりな沖合へまで掘りにいかなけりゃならないということ自体がピークの兆候だと思うのですが。

●コメントby SGW 2006-09-13 09:00:28
 マスコミの論説委員などでも、嫌な現実は見たくないと自分の心理が出てしまうのかもしれません。

 否認状態にあるという例では、
なぜ私たちは温暖化を否認するのか(その2)
http://www.janjanblog.jp/user/stopglobalwarming/stopglobalwarming/301.html
が、そういった心理を分析していたと思います。

”そこでは、おのおのの個人は問題の現実性を理解するかもしれないが、そのことの意味を受け入れることを拒否してしまうのだ。
 社会学者スタンレー・コーヘンは、本「否認の存在」の中でこの状態を「巻き添えの否認」と呼び、人類が道徳的に考えられない状況に直面したときに採用しがちな自然の防衛本能であるとしている。”

●コメントby SGW 2006-09-18 07:45:19
ブログ「ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報」では、
PEAK OILを火消しに入るエクソン・アラムコの真意は?
と題して、ピークオイル論は欧州企業の陰謀ではないか、という論を書いています。

●コメントby rita 2006-09-18 16:42:38
欧州企業,ですか。欧州の企業。
てっきりユの字かサヨの陰謀だとばっかり思ってましたが。
posted by おぐおぐ at 16:48 | TrackBack(0) | 供給側対策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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